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2017年12月2日土曜日

白球アフロ 朝倉 宏景 ・著(講談社文庫)

 
人を食ったようなタイトル。ゲテモノと侮って、野球小説史上に残るような名作をスルーするところだった。
 あまり期待していなかった。アフロヘアの転校生、クリスが野球部に入部。日本野球とのギャップ、コイバナと予想通りの展開にやれやれ。クリスの悲しいバックストーリーもあまり感情移入できない。
 ただページをめくるだけの読書が一変したのは野球の試合シーン。立教大学野球部に籍をおいいていたこともある伊集院静は「野球の実戦シーンを一気に押し通した、骨の太さが印象的」とこの小説を激賞したという。
 例えば、試合前のシートノック、
セカンドの俺も、マウンド付近でもう一枚の中継に入っている。とんでもないレーザービームが飛んでくるのと、一塁ランナーが三塁ベースを蹴った瞬間が俺の視界にも入ってきた。このまま中継のカットは不要だと判断した。キャッチャーの岡崎先輩も「スルー!」と叫ぶ。俺は送球を捕る姿勢のまま、グラブだけボールをスルーし、二塁をオーバーランしたバッターランナーを牽制する。„
コンマ数秒のセカンドの中継プレーでの動きを心理も含めて、細かく 描写できている。
  スクイズは、こんな具合。
バットを持った両手に軽い衝撃が残る。
とりあえず前に転がってくれたので走りだす。
ファーストを駆け抜けても、一向にボールは一塁手にやってこない。
ということは、送球はホームに送られたということだ。
アウトか、セーフか。
ファールゾーンまで駆け抜けると、そのまま後ろを振り返った。„
     そうそうこういう感覚。顔の前でバットを構える仕草をしちゃったぜ。
  試合シーンはこんな感じで続き、ページをめくるスピードが前半の2倍速に。

  このぐいぐい引き込む描写は「端から野球を観ていた人」の頭の中では作り出せないレベル。野球描写の巧みな書き手としては、桐蔭学園野球部OB早見和真PL学園野球部OBなきぼくろなどがいるが、この人はどんな球歴の人なんだろう? ネットで調べてみたが東京学芸大卒という経歴以上の情報が見つからず。