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2019年6月23日日曜日

【抜き書き】甲子園という病

・child abuse(チャイルド・アビュース)児童虐待 はメジャーリーグスカウトの甲子園を取り巻く環境のことを表現
・「甲子園で山なりボール」
指導者からいつも言われる言葉は「痛いか?」ではなく、「いけるか?」そうなると「いけます」というしか言えないですよね。木更津総合・千葉貴央
・「日程は変えた方がいいと思います。千葉県大会だと七、八試合もあって二度の連戦がありますから選手にはきついと思います。ケガをしている選手に出場の可否の判断を促しても、自分から『出ない』と決断するのは難しいですい。だから、そうならないようルールをつくったり、指導者の方の自覚が必要なのかと思います」(千葉)
・2013年は投手の登板過多の問題が取り上げられるようになったエポック
「ピッチャーの登板過多について追及していこうという動きは過去にもあったけど、高校野球は変わらない」(ある雑誌編集者の言葉)
済美のエース、安樂智大が広陵戦で延長13回232球を投げたことにアメリカのメディアが「正気の沙汰ではない」とかみついたことが発端
・エースが多く登板する要因
プロのスカウトの視察、遠くから遠征してきたチームに「エースを出さないのは失礼」などあるが指揮官の勝利至上主義による場合が多い。「選手を勝たせたい」と大言壮語するが「自らが勝ちたい、恥をかきたくない」という気持ちが根底にある。

・早熟化
「未完成のまま送り出していれば、松坂はもう少し長く活躍できていたかも知れない」(小倉清一郎)
・メディアが作り上げる「スーパー1年生」。
「高校生は未熟なので『ドラフト1位候補』や『ドラフト候補』と言われると、本人はそのレベルの選手でないと自覚していても、意識はすると思うんです。プロに行けるかどうかなんて100%ではないじゃないですか。高校生のことを増長させる表現を使うのは疑問に思います。メディアの人は選手を取る側の人間ではないわけですから。(略)責任を取らない大人がそうやって子どもの夢を勝手に大きくして、慢心させる環境はよくない」(酒田南 美濃一平)
・「いまの野球界は、高校野球の間で結果を出さないと将来が見えてこないという現状にあります。野球とは経験を有するスポーツで、長いスパンの育成計画が必要です。そうであるのに、負けたら終わりの一発勝負の舞台(=甲子園)がある。そこで結果を残すための"促成栽培"をしないといけない子どもたちにとって良くないことだと思います。
(元阪急 竹本修 市立尼崎監督)
・「本来は、指導者が学ぶ機関を作るべきだと僕は思いますね」
「小学生を指導する体制を本気で考えないといけない。野球をやる場所も作ってあげないといけない。アメリカはうまくやっていますね。目先のプラスマイナスじゃなくて、ちゃんと野球が文化になるようにしています」
(山本 大阪偕星監督)
・高校サッカーの感動の裏で、決勝に上がった二校の日程を見て驚いた。一週間で五試合。いろいろな事情はあるんだろうけど、もう少し選手ファーストで考えて欲しいな。選手が潰れてからでは遅いよ」(サッカー長友)
・ピッチスマート MLB機構と米国野球協会が幼少期の投げすぎへの対策
一日の投球数は十七、八歳で最高105球、七十六球以上投げた場合は次回登板まで四日間の休養を必要とする。試合に登板しない期間を年間四か月以上設け、そのうち二、三か月は投球練習しない。
・福岡大大濠の三浦銀二の登板回避をメディアが称賛するも「勝つための戦略」
・三浦が190以上投げた翌々日に先発したのは二番手以降の投手を育てられなかった指導者の責任
・「今まで野球をやってきて楽しいと思ったことがないです」
(東海大相模 小笠原慎之介)
・「スポーツ、野球はプレーしている時が楽しいはずなんです。メジャーリーガーですごい成績を残している選手は『楽しもう、楽しもう』と言わなくても、それが当たり前の中でやっているんです。ところが、日本は失敗したらダメ、エラーはいけない、勝たばあかん、と。そればっかりじゃないですか。負けたら終わりやぞ、という精神で戻るところがない。小笠原の言葉は、高校野球をやっている人間の本音やと思うんです」
(グアテマラでの経験)野球をやっているその瞬間が楽しい。日本では野球をやっていたことを語りあったり、勝った経験をしたこと、いい友達が出来たと後からじじわくるものばかり。
福知山成美の部員が30名から150名に
(田所孝二 岐阜第一監督)
・食トレという拷問
ご飯のグラムを測る 体重をチェックして叱責
『食事って楽しく食べるものでしょう。お父さんやお母さんと今日は何があったって笑いながら食べるもんじゃないの』という妻の言葉に食事の仕方を変える。「食事を”餌”にしてはいけない」
「高校球児の”心の機械化”」「機械の一部みたいに高校球児を扱っている。食事のことはその一例ではないでしょうか。子どもには心があるのだから、そこを大切にして育んでいかなきゃだめだと思う。監督がいい顔をして、選手もいい表情でノックを受ける。選手たちがいい雰囲気の中にいたら、おのずと成長していいくと思います」
(日大三・小倉全由監督)
・美里工業 「工支援(こうしえん)」 「工業」を支えるための自主的なグランド内外でのサポート
・履正社の安田の父は大阪薫英女子陸上部監督
・根尾のスポーツシーズン制 アルペンスキーと野球
・「高校生らしさとは何か」品行方正が正しい姿に思っていたが、挨拶ができないことも、眉毛をそっていることも個性と思えるようになってきた。
・神戸国際大付への日本高野連の田名部事務局長から眉毛について警告
・見た目や高校球児らしいという判断のもとで人を評価して決めつけてしまうのではなく、「高校生らしい」と受け止め、彼らが持つエネルギーを正しい方向へ導いていく、それこそが本当の教育ではないか。
・日本ハムには選手教育ディレクターという社会人としての生活指導をするスタッフが存在する。
「他球団の多くのスカウトは、噂を流したがりますよね。『態度が悪い』『生意気だ』とか。うちは、そういうところで差別化をはかれているという自負はある。他球団が『ダメだよ、あんなやついらない』と野球以外の部分で切り捨てていった選手をマメに調査して、拾う。そして育てる。実際、生意気だったとか、そういうのが噂になる選手って、それそのものがエネルギーに変わる要素の一つだったりするんです」(大渕隆)
<作者の主張>
高校球児らしさとは何なのか? 若い彼らが持つエネルギーの発動を「態度」などで制限するのではなく、大きな力として認めてやる。そして、それを正しい方向へと導いてやるのが、指導者や大人の役目であろう。
高校野球の歴史は100年を超えた。その中で、多くの人間が「高校野球はこうでなければいけない」と思い込んでいる。だが、本来の高校野球は「教育」の一過程であり、スポーツである以上、楽しくやるべきなのだ。高校野球が100年で積み上げてきた歴史は素晴らしいものだが、高校球児らしき時代はともに変化していく。
 甲子園大会が100回を数えたいま、我々は「甲子園」にこびりついた考えを一度洗い流し、再考してみるべきだと思う。

取り上げた数々のエピソードは指導者や関係者をつるし上げるためのものではない。本書の目的は、隠れていた事実に目を向けることによって、これからの甲子園がどうあるべきかを問うことである。

虐待とも言える投手の登板過多、選手の気持ちを無視した「松井の5敬遠」のような戦術、考える力を球児から奪う長時間練習、生きる楽しみを奪う食トレーニング。

「野球界をよくしたい」

高校野球は素晴らしいし、甲子園は目指す価値のある舞台だ。だかこそ、時に有望な選手たちを潰す場とするのではなく、もっと高校球児たちのためになる舞台になってほしいと心から願っている。

甲子園という病 (新潮新書) 新書 – 2018/8/8 氏原 英明 (著)

  現代の「野球害毒論」、ではない。
  登板過多、大会スケジュール、選手の早熟化、メディアの弊害、指導者、食トレな「感動バイアス」で曇っている目、濁っている頭にクールで真っ当な正論を提示してくれる。
 高校野球の歴史は100年を超えた。その中で、多くの人間が「高校野球はこうでなければいけない」と思い込んでいる。だが、本来の高校野球は「教育」の一過程であり、スポーツである以上、楽しくやるべきなのだ。高校野球が100年で積み上げてきた歴史は素晴らしいものだが、高校球児らしき時代はともに変化していく。
高校野球が変わるには、「俺たちの時代は...」なんて思い出の中、思考停止に陥っている場合ではない。観戦者もまた野球関係者、野球をとりまく環境である。変化を認め、見守り、応援していきたいものだ。



2019年6月18日火曜日

明治38年ぶりの大学選手権優勝

【No.59 2019/6/17 明治大 6-1 佛教大 神宮球場 第68回全日本大学野球選手権大会 決勝】
 明治が38年ぶりの大学選手権優勝。
 この日も「打てない明治」にやきもきする。3回にエラーとボークというややラッキーな形で3点先取。森下(4年 大分商)ならこれで十分だろうと思ったが、相手よりはるかに少ない3安打で勝つのも格好つかないなあ、なんて思っていたら最終回に喜多(4 広陵)のタイムリーツーベースで3点追加し勝負を決める。この春の明治は終盤に得点する粘りがある。
 森下は準々決勝と同じように打たせてとるピッチングでこの試合も7安打打たれながらも10個の三振を奪い、3球だけ球数の少ない105球で1失点完投した。
 最高殊勲選手賞・最優秀投手賞は当然、森下。4番として勝負強いバッティングを見せた北本(4 二松学舎大)が13打数 7安打 打率.538で首位打者賞。
 キレのあるスライダーを武器にロングリリーフで好投した佛教大の左腕、木下 隆也に敢闘賞。酷寒の網走から来てベスト4に進出した東京農業大北海道オホーツクには特別賞。
 38年前に1年生だった善波さんが、当時の優勝メンバーの名前をひとりひとり口にした優勝インタビューは、先輩たちへの敬意が感じられ胸が熱くなった。
 
 

2019年6月17日月曜日

伊勢大明神!!

【No.57 2019/6/16 明治大 5-1  東農大北海道 神宮球場 第68回全日本大学野球選手権大会 準決勝】
 伊勢大明神と拝みたくなるような神がかった伊勢大夢(4年 九州学院)のリリーフで明治が38年ぶりの全日本大学野球選手権制覇に王手をかけた。
 先発の竹田(2年 履正社)が2回東農大北海道の2番・新宅にホームランを許す。その裏、ラッキーなヒットで同点に追いついた明治は3回から伊勢を投入。
 伊勢は自己記録となる151キロのストレートや特にツーシームなどで東農大北海道を圧倒。9回ツーアウトからヒットを打たれるまで四球1つの準完全リリーフ。点をとられるどころかヒットを打たれる感じもしなかった。
 1点とれば勝ちを計算できる明治は8回裏にワイルドピッチで勝ち越し、5番・喜多(4年 広陵)の2ラン、7番・陶山(2年 常総学院)のタイムリーツーベースで勝負を決めた。

2019年6月15日土曜日

事実上の決勝、ではなかったよね

【No.54 2019/6/13 明治大 3-0 東洋大 神宮球場 第68回全日本大学野球選手権大会 準々決勝】
 東京六大学代表と東都大学代表の対戦。事実上の決勝なんて言うむきもあったが、エースが抑え4番が打った明治の完勝だった。
 明治の先発はこの日のために調整してきた森下(4年 大分商)、東洋は前日に7イニング投げている村上(3 智辯学園)。コントロール、スピード、キレとも本来のものではない村上は初回、明治の4番・北本(4 二松学舎大)に浮いたフォークを打たれ先制を許す。3回にはワイルドピッチで追加点を許し、5回に再び北本にセンターオーバーのタイムリーツーベースで0-3。
 一方の森下は150キロ超のストレートだけでなく、カットボール、ツーシーム、カーブなどをバランスよくちりばめ、奪三振4の打たせてとる投球。108球ですいすいと完封した。6回にノーアウトで連打されたがそこから立て直すのがこの春の成長。去年までならこういうケースで甘く入って失点するケースもあったが、肉体的にも精神的にもスタミナがつき、ピンチを乗り切ることが出来るようになった。キャプテンになったことがプラスに働いている。
 東洋は3点を追いかける最終回にセカンドランナーの佐藤が強引に突っ込んで余裕のホームタッチアウト。佐藤は打っても6回のワンアウト一、二塁でサードファウルフライに打ち取られるなど内野安打1本の4打数1安打。


2019年6月8日土曜日

東海は亜細亜とスパーリング

【No.53 2019/6/8 亜細亜大 1-0 東海大 亜細亜大グランド オープン戦】
 全日本大学選手権を直前に控えた東海大と東都4位で立て直しをはかる亜細亜のスパーリング的なオープン戦。
 亜細亜はスタメンの野手にフレッシュな顔ぶれを並べたが先発投手はエース格で侍大学代表候補にも選ばれている内間拓馬(3年 宜野座)を立てて礼をつくす。東海大も最高殊勲選手の山﨑伊織(3年 明石商)が先発し、投手戦に。
 リーグ戦のスタメンを並べた東海だったが、内間には5イニングを内野安打1本に抑えられる。6回以降も亜細亜の小刻みな継投にチャンスを作るもなかなか得点できない。8、9回は代打5人を送る虫干し的な選手起用で完封負け。侍大学代表常連でドラフト候補の捕手、海野隆司。イニング間の送球は1.79がベストタイムもショートバウンドなど乱れることも。試合では1/2(1捕殺1許盗塁)。3打数1安打(1犠打)。

big6目線でみた都市対抗東京都二次予選

【No.50 2019/6/3 鷺宮製作所 2-1  NTT東日本 神宮球場 第90回都市対抗野球大会 東京都二次予選】
【No.51 2019/6/5 JR東日本 4-3  明治安田生命 神宮球場 第90回都市対抗野球大会 東京都二次予選】
【NO.52 2019/6/6 セガサミー 0-6 明治安田生命 神宮球場 第90回都市対抗野球大会 東京都二次予選】
 今週は火曜日以外は平日ナイターで都市対抗の東京都二次予選。
 月曜日。完封ペースの“小さな大エース”野口 亮太を最終回に降板させた鷺宮。去年の法政のキャプテン、向山基生のホームランで1点差に迫られ肝を冷やすが何とか逃げ切る。2年連続の第1代表。
 水曜日。4回に5番・渡辺和哉(文星芸大付-専修大)の1点差に迫ったJR東日本。続く5回、JRファイヤーが鳴りやまぬ押せ押せGOGOな攻撃。立教OBの佐藤拓也のヒットなどで満塁のチャンスをつかむ。満塁のピンチでリリーフした明治OBの高橋 裕也のワイルドピッチで同点。早稲田OBの丸子達也のタイムリーで4-2と引き離す。3回から太田龍(れいめい)、7回には西田光汰(大体大浪商)のドラフト候補コンビの無失点リレーで第3代表で10年連続22回目の都市対抗出場を決める。明治安田は高橋のあとの慶應OBの三宮舜が4回2/3を7三振を奪うパーフェクトリリーフを見せただけに悔やまれる継投になった。
 木曜日。東京代表の最後のイスをかけた戦いは3回の猛攻で4点を奪った明治安田生命が勝利し、4年ぶり6回目の代表に。第2代表決定戦でも1失点の好投をした明治OBの大久保匠はこの日も8安打を打たれながら完封。力の抜けたフォームからバリエーション豊かな変化球をコーナーに決める。明治大の頃は上に野村祐輔、下に関谷亮太 山﨑福也らがいて目立った活躍はなかった。リーグ戦5試合6回1/3で未勝利。29才にして花開いた。
 

2019年6月2日日曜日

天才のきらめき

【No.49 2019/6/1 早稲田大 3-2 慶應義塾大 神宮球場 東京六大学2019春季リーグ戦】
 ボーとしていたら見逃していただろう。スタンドで何が起こったのか周りに聞く人も多かったのでは。ベンチのメンバーにもいたかも?
 4回表、早稲田の攻撃 ワンアウト二、三塁でその”事件”は起こった。バッターは4番・加藤。カウント2-2。1点を追う早稲田の主砲の一打に注目が集まる。あら、間抜けな声を発しているうちに三塁ランナーの瀧澤が頭からホームに滑り込んでいた。えっ、ホームスチール。事態を把握するのに数秒。「早慶戦のホームスチール、上本以来だなあ」。阪神で活躍する上本も2008年春の早慶戦で決めている。雨の中、ベンチにそのまま滑り込んでいくのではないかという勢いでスライディングしたのを今でも思い出す。
 上本は三塁コーチ海津に「行くわ」という言葉を残してスタートを切ったという。天才的とも言われた彼にはひらめきがあったのか。この日の瀧澤は、「ロジンバッグに2,3秒手をおく」という慶應のエース高橋佑のクセを観察していて、試合前に狙うことを公言していたという。それにしても4番バッターのヒットにかける場面でやるとは度胸あるなあ。こういう選手が早慶戦のような大きな舞台では活躍するものだ。8回には慶應のクローザー高橋亮からセンターへ決勝ホームランを放り込んだ。