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2018年6月26日火曜日

機動破壊の解析力 健大高崎 強豪を撃破する99の攻略法

 初出場の2011年夏から初戦にすべて勝利をおさめている健大高崎。
 相手校を研究する時間が十分にあれば勝つ可能性を100%に近づける分析力が自慢だ。その分析力を支えるのが葛原美峰スーパーバイザー(SV)だ。
 本書では葛原SVが“門外不出”の企業秘密を豊富な実例を交えながら、あますことなく公開してくれている。
 何よりも優先されている投手の分析。手の位置、膝の高さ、頭の位置などのわずかな違いから、球種、けん制球の有無を見抜く。構え方、立ち位置、グリップ、スタンスから打者の特徴をつかみ対策を立てる。スローイングに難のある内野手を見つけたら、その選手に守備機会を作るような戦術を練る。
 分析し、対策を立てるだけで満足するチームが多い中、健大高崎はそれを遂行できるように何度も繰り返し練習する。それによって分析力が戦術としてしみ込み、勝利の可能性が高まるのだ。
 対戦相手だけでなく、自分のチームにも分析力は発揮されるのだ。セイバーメトリクスを駆使して作成した“通知表”で部員たちひとりひとりに自分の強み弱みを理解させる。この“通知表”に
は親との通信欄も設けられている。数字をはっきり見せることで、印象だけで「何でうちの子を使わない」というような親の子をシャットアウトする。“モンスターペアレンツ対策”にもなっているという抜かりのなさ。
技術指導、練習における考え方もユニーク。
 理想とはかけ離れた投球フォームもあえて矯正せず、そのフォームに合った変化球をマスターさせ、バッターのタイミングをはずすことを覚えさせる。
 投手が走者になった直後のピッチングは失点しやすいが、ブルペンの投球中に突然ダッシュをはさむことで疑似体験させておく。
 貴重な企業秘密をこのような形で公開するのは、若い指導者たちへのメッセージであると同時に自分自身に挑戦するためだという。退路を断ち、新たな戦術、戦略を生み出さざるをえないように自分を追い込むのだ。
 野球の“求道者”。いや“変態”と呼んだ方が葛原SVは喜ぶだろうな。
 野球をただ観戦するだけでなく、観察したくなる。

 

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