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2017年7月11日火曜日

中南米野球はなぜ強いのか 中島大輔 ・著 (亜紀書房)

 中南米野球はなぜ強いのか。
「身体能力の高い選手をきちんとしたシステムで育成しているからでしょ」。ざっくりした答えとしてはこれで間違いではないだろう。国ごとに見ていくと大きく違うのだ。
 本書では著者の中島大輔氏とカメラマン氏の現地取材によって、それぞれの国の野球事情を知ることが出来る。
 もっともメジャーリーグを輩出している国、ドミニカ。税制で優遇することでたくさんのMLBのアカデミーを呼び込んだ。この地には広島カープもアカデミーを構えている。カープアカデミーの投手コーチは「学校に行ってない選手が多く、そのために規律がない。他者に対する敬意も欠けている。規律を持たなければ、野球選手として成功するのは難しい」という。フリオ・フランコ。MLBで成功し、NPBでもプレーしたドミニカ野球界の「生ける伝説」。規律の固まりのような選手。この本の中でインタビューに答えているが、今でもヨガを1日3回するなど規則正しい暮らしを続けているようだ。
 オランダ領キュラソーは総人口に対するメジャーリーガー輩出率が世界一。21000人に1人がメジャーリーガーになる。ドミニカが12万5000人に1人、アメリカが50万3000人に1人というデータを見ればこれは奇跡的な数字だ。少年野球世代からの育成システムで長期的な視点で選手を大きく育てる。打撃のミート力、パワー、走塁技術、守備力、送球能力の5ツールに加えて知性を備えた6ツールプレイヤーを目指す。その最も成功した例がアンドリュー・ジョーンズだという。
 オリンピックで金メダル3、銀メダル2個を獲得するなどアマチュア最強の座を欲しいままにしてきたキューバは過渡期にある。カストロが作ったキューバ独特の選手育成システムで育てられた選手たちも亡命という形でMLBでのプレーを目指す。経験のある選手たちが抜けて残った若手の選手には「戦術的な技術と戦略性に欠けている」とワールドカップ優勝監督アルフォンソ・ウルオキラは指摘する。今後も亡命が続くような制度下ではナショナルチームが再び世界の頂点を極めるのは難しいだろう。
 世界最悪の犯罪率、殺人率“最恐の国”、ベネズエラ。「よく、無事に帰ってきましたね」。2014年から2年オフにベネズエラのウインターリーグでプレーした渡辺俊介に著者は言われたという。治安悪化と加えて食糧不足でMLBのアカデミーが次々と撤退。1990年代には20以上あったアカデミーも4つにまで減少。MLBアカデミーの閉鎖はある中、国内アカデミーがプロ養成機関として機能を期待される。パワーヒッターだけでなく、知性派捕手、小柄なショート、セカンドなど多様な選手が育つ。
これからはMLB、NPBの試合で中南米の選手を観るときにどこの国かということまで気になりそうだ。